2013年、慢性萎縮性胃炎におけるピロリ菌の除菌治療が保険適応になりました。
ピロリ菌がいそうな胃か、いそうもない胃かは、ある程度の経験を積んだ内視鏡医なら肉眼で判断できます。
その上で、裏付けとしてのピロリ菌の有無を調べることになります。
過去にピロリ菌の除菌治療を受けていない場合であれば、内視鏡検査をしなくても血液検査(ピロリ菌に対する抗体の有無を調べます)、もしくは息を集めて行う検査で判断することができます。
しかし、今回の保険適応に際しては、内視鏡検査がなされていて、萎縮性胃炎の所見が確認されていることが前提になっています。
これは、ピロリ菌によって発生頻度が上昇する胃癌を見落とさないために必要です。
今後は胃癌に対する健診も変わり、『ABC検診(胃がんリスク検診)』という言葉が聞かれるようになると思われます。これは以下の考えに基づいています。
ピロリ菌感染のない人から胃がんが発生することはごくまれです。また、ピロリ菌感染によって胃粘膜の萎縮が進むほど、胃がんが発生しやすくなります。
胃粘膜の萎縮の程度は、胃から分泌されて消化酵素ペプシンのもとになるペプシノゲンという物質の血液中の濃度を測定することでわかり、基準値以下の人は、6~9倍胃がんになりやすいことがわかっています。
胃がんリスク検診(ABC検診)とは、ピロリ菌感染の有無(血清ピロリ菌IgG抗体)と胃粘膜萎縮の程度(血清ペプシノゲン値)を測定し、被験者が胃がんになりやすい状態かどうかをA~Dの4群に分類する新しい検診法です。血液による簡便な検体検査であり、特定検診(メタボ健診)などと同時に行なうこともできます。
胃がんリスク検診(ABC検診)はがんそのものを見つける検査ではなく、胃がんになる危険度がきわめて低い、ピロリ菌の感染がなく胃粘膜が健康な人たち(A群)を精密検査の対象から除外し、ピロリ菌に感染(またはかつて感染)して胃粘膜に萎縮のある人たち(B~D群)には、胃がんの存在を確かめる精密検査(内視鏡検査等)を受けていただくものです。
近年、若い方々を中心にピロリ菌に感染していないA群の割合が増えており、多くのA群の人たちが内視鏡による精密検診を受けないで済む点が大きなメリットです。